日記文学の誕生と発展
日記とは、本来男性の官人が漢文で書く日々の出来事の記録でした。
しかし、10世紀前半、紀貫之はあくまでも女性であるという態で、
仮名文字で船旅を記録した『土佐日記』を残しました。
彼が女性と偽ってまで仮名文字を用いたのは、
漢文による記録ではなく、心情などをより自由に表現するためだったと言われています。
これによって日記文学というジャンルが誕生しました。
また、後宮での出来事を女房たちが仮名文字で記録した女房日記や、
歌合の記録を行った歌合日記ものちの日記文学につながっていきます。
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そうしたなか、10世紀後半に藤原道綱母によって書かれたのが、
『蜻蛉日記』でした。
藤原兼家との結婚生活を中心としたこの日記には、
女性が自身の人生について内省するという視点があり、
その視点は『源氏物語』にも影響を与えています。
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『蜻蛉日記』以降、日記文学は女性が担い手となっていきました。
11世紀後半には、道綱母の姪にあたる菅原孝標女の『更級日記』が書かれますが、
これも自伝的な作品になっています。
13歳から約40年間の人生を晩年になって振り返るなかで、
『源氏物語』との出会いや仏教への帰依が描かれている、
当時の貴族女性の心情を知ることのできる貴重な作品です。
また、11世紀初めの『紫式部日記』は、
中宮彰子に仕えていた紫式部が書いた日記で、
宮仕えの生活や同時代の女性文学者への批評などがつづられています。
同時代の和泉式部や赤染衛門、清少納言への批評では、
紫式部の冷静な観察眼が冴えわたっているほか、
当時の宮廷儀礼などを詳細に記録した資料としても高い価値のある作品です。
12世紀初めの『讃岐典侍日記』も女房の立場から書かれた日記で、
藤原長子が堀川天皇の発病から崩御、天皇への追慕を綴った内容になっています。
また、11世紀初めの『和泉式部日記』は、
和泉式部と敦道親王との贈答歌を中心とした歌物語風の日記です。
代表的な日記文学の成立順は以下の通りです。
- 土佐日記(935年?) 作者:紀貫之
- 蜻蛉日記(974年?) 作者:藤原道綱母
- 和泉式部日記(1007年?) 作者:和泉式部
- 紫式部日記(1010年?) 作者:紫式部
- 更級日記(1060年?) 作者:菅原孝標女
- 讃岐典侍日記(1109年?) 作者:藤原長子
随筆文学の祖『枕草子』
中宮定子に仕えた清少納言は、11世紀初めに『枕草子』を書きました。
「梨壺の五人」の1人である清原元輔の娘である清少納言は、
関白藤原道隆の娘である中宮定子に女房として仕えます。
女房として宮廷生活を送る中で感じたこと、見聞したことなどが、
豊かな感性かつ自由で型に囚われない文章によって綴られていきます。
快活で理知的なその作風は「をかし」の文学と評され、
『源氏物語』と並ぶ平安時代の最高傑作として輝きを放つ作品です。
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仏教説話と世俗説話
説話には仏教の教えを説いた仏教説話と、
身分に関わらず人々の間で語られてきた世俗説話に大別されます。
仏教説話を集めた説話集には、9世紀前半の『日本霊異記』や、
10世紀後半の源為憲による『三宝絵詞』、
12世紀前半の『打聞集』などがあります。
『日本霊異記』は薬師寺の僧である景戒が編者の、日本最古の仏教説話集です。
12世紀後半にはインドや中国、日本の仏教説話と世俗説話を収集した、
『今昔物語集』が完成します。
現存する最大の説話集として、当時の人々にとっての世界を網羅するかのように、
数多くのエピソードが収められています。
その多様な作風には文学的興趣があふれており、
後世の説話文学や軍記物語にも幅広く影響を与えました。
芥川龍之介の『鼻』や『羅生門』も『今昔物語』に題材をとっています。
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また、そのほかには貴族説話と呼ばれる貴族社会のエピソードを伝えたものもあります。
12世紀初めの、大江匡房の談話を藤原実兼が記録した『江談抄』、
12世紀後半の漢籍故事を和文化して和歌を添えた説話集『唐物語』などが、
その代表的な作品です。
最後に
今回は平安時代の日記文学や『枕草子』、
説話文学などについて取り上げてきました。
次回は中世文学に入り、より幅広く発展していく文学について見ていきます。
それでは。
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~和歌から連歌、深まる歌論~
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