日本文学のグローバル化
昭和末から平成初期にかけて、バブル経済が崩壊したことで、
日本は長期にわたる不況と社会不安の時代を迎えます。
出版界にも不況の波が到来し、小説の売り上げも低下しました。
そうした状況の中でベストセラーとなったのが、
村上春樹『ノルウェイの森』と吉本ばなな『キッチン』でした。
彼らは日本の文壇から一定の距離を取るスタンスで作家活動を続けていますが、
彼らの作品は外国語に翻訳されており、
世界中で愛読されている世界文学ともいうことができます。
また、平成の文学において大きな出来事だったのが、
1994年の大江健三郎のノーベル文学賞受賞でした。
![](http://kareinaruyakusaihanten.com/wp-content/uploads/2021/06/225px-Paris_-_Salon_du_livre_2012_-_Kenzaburo_Oe_-_003-e1623483784498.jpg)
1968年の川端康成以来、大江は日本人2人目の受賞者となりました。
平成の文学が主流を持たずに多様化し、越境的になっていくなか、
大江は独自の存在感を一貫して保ち続けています。
また、グローバル化という視点から見ると、
日本語を母語としない作家や、
海外を拠点として複数の言語で執筆を行う作家たちの登場もその表れといえるでしょう。
『星条旗の聞こえない部屋』のリービ英雄、
『犬婿入り』の多和田葉子などがそうした作家として挙げられます。
多様な新作家たちの登場
1998年頃(平成10年)までに、平成を彩る多様な作家たちが登場していきました。
具体的には、『村の名前』の辻原登、『プレーンソング』の保坂和志、
『アメリカの夜』の阿部和重、『妊娠カレンダー』の小川洋子のほか、
奥泉光、笙野頼子、川上弘美らが挙げられます。
平成10年代に入ると、中世フランスの神学僧の神秘体験を描いた『日蝕』で
23歳の平野啓一郎が1999年に芥川賞を受賞したり、
19歳の綿矢りさが『蹴りたい背中』で、
20歳の金原ひとみが『蛇にピアス』で2004年に芥川賞を同時受賞したりと、
若い年齢で高い評価を受けてデビューする作家の登場が目立ちました。
『蹴りたい背中』は異質な高校生2人の微妙な関係性を豊かな比喩と若者言葉で描き、
『蛇にピアス』は居場所のない若者の痛みを繊細に表現した作品です。
![](http://kareinaruyakusaihanten.com/wp-content/uploads/2021/06/Risa_Wataya_綿矢りさ_at_Embassy_of_Japan_in_Poland_in_2013.jpg)
上記の作家の他にも、島本理生、鹿島田真希など、
10代・20代の若い作家たちが登場しています。
日本社会の周縁からの問いかけ
平成という時代には、沖縄や在日朝鮮人など、日本社会の周縁から問題を提起し、
国や社会、人間の在り方を捉えようとする文学も充実しました。
沖縄文学においては、又吉栄喜『豚の報い』、目取真俊『水滴』『魂込め』など、
沖縄の言葉や風俗を濃厚に描きながら、
現在の沖縄が抱える問題を描き出しています。
平成の在日文学は、在日二世・三世の作家たちが抱える社会への葛藤や、
世代間のギャップやアイデンティティの不明性を題材としています。
李良枝『由熙』、金石範『火山島』のほか、
鷺沢萠『葉桜の日』『君はこの国を好きか』、
金城一紀『GO』が挙げられます。
鷺沢は三世の在日像を等身大で描き、
金城は自らのアイデンティティの問題に取り組みました。
彼らの他には、『家族シネマ』の柳美里や、
玄月・梁石日などの作家がいます。
![](http://kareinaruyakusaihanten.com/wp-content/uploads/2021/06/Miri_Yu.jpg)
異業種作家の活躍
平成の文学の特徴の1つに、他のカルチャーとの結びつきがあります。
別のクリエイティブな職業に身を置きつつ、
小説家としてもデビューした異業種作家たちです。
『家族シネマ』の柳美里は劇作家・演出家出身で、
『海峡の光』で芥川賞を受賞した辻仁成はロックミュージシャン出身です。
![](http://kareinaruyakusaihanten.com/wp-content/uploads/2021/06/Hitonati.Tsuji_.Paris_-683x1024.jpg)
同じくロックミュージシャンで、俳優としても活動していた町田康は、
『くっすん大黒』『きれぎれ』で注目を浴びました。
近年では、劇団を主宰する劇作家の本谷有希子、
お笑い芸人の又吉直樹なども活躍しています。
ケータイ小説やライトノベルの登場
情報技術の高度化や、漫画・アニメなどのサブカルチャーと結びつく形で、
新しい形の文学が生み出されます。
その1つが、携帯電話で執筆・鑑賞されるケータイ小説でした。
ブームは数年で終了しましたが、美嘉『恋空』など、
一時はベストセラーの上位を占めるほどの勢いがありました。
もう1つは昭和末に流行した少女小説の流れを汲むライトノベルです。
漫画やアニメ風のイラストが表紙や挿絵に用いられ、
キャラクターも特徴的なものが多く登場しました。
時雨沢恵一『キノの旅』、谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』など、
若い読者から多くの支持を受けて、映像化された作品も数多くあります。
女性作家の活躍
平成に入り、女性作家の活躍も目立つようになりました。
平成の間に芥川賞を受賞した女性作家は、
李良枝、小川洋子、笙野頼子、川上弘美、絲山秋子、
川上未映子、津村記久子、鹿島田真希、村田沙耶香など、26人に上ります。
昭和後期の受賞者は16人でしたので、大きく人数を伸ばしていることが分かります。
ほかにも、時代小説やファンタジー、時代小説など、
幅広い作風で多様な作者を獲得している宮部みゆきも近年活躍している女性作家です。
さいごに
ここまで、平成の文学の流れを見てきました。
令和の時代に入り、日本の文学は一層の多様化を示しています。
今後も様々な作品を紹介していきます。
それでは。
コメント