平成文学の流れ ~多様化していく文学~

日本文学を学ぶ

日本文学のグローバル化

昭和末から平成初期にかけて、バブル経済が崩壊したことで、
日本は長期にわたる不況と社会不安の時代を迎えます。

出版界にも不況の波が到来し、小説の売り上げも低下しました。

そうした状況の中でベストセラーとなったのが、
村上春樹むらかみはるきノルウェイのもり』と吉本よしもとばななキッチン』でした。

彼らは日本の文壇から一定の距離を取るスタンスで作家活動を続けていますが、
彼らの作品は外国語に翻訳されており、
世界中で愛読されている世界文学ともいうことができます。

また、平成の文学において大きな出来事だったのが、
1994年の大江健三郎おおえけんざぶろうのノーベル文学賞受賞でした。

大江 健三郎

1968年の川端康成かわばたやすなり以来、大江は日本人2人目の受賞者となりました。

平成の文学が主流を持たずに多様化し、越境的になっていくなか、
大江は独自の存在感を一貫して保ち続けています。

また、グローバル化という視点から見ると、
日本語を母語としない作家や、
海外を拠点として複数の言語で執筆を行う作家たちの登場もその表れといえるでしょう。

星条旗せいじょうきこえない部屋へや』のリービ英雄ひでお
犬婿入いぬむこい』の多和田葉子たわだようこなどがそうした作家として挙げられます。

多様な新作家たちの登場

1998年頃(平成10年)までに、平成を彩る多様な作家たちが登場していきました。

具体的には、『むら名前なまえ』の辻原登つじはらのぼる、『プレーンソング』の保坂和志ほさかかずし
アメリカのよる』の阿部和重あべかずしげ、『妊娠にんしんカレンダー』の小川洋子おがわようこのほか、
奥泉光おくいずみひかる笙野頼子しょうのよりこ川上弘美かわかみひろみらが挙げられます。

平成10年代に入ると、中世フランスの神学僧の神秘体験を描いた『日蝕にっしょく』で
23歳の平野啓一郎ひらのけいいちろうが1999年に芥川賞を受賞したり、

19歳の綿矢わたやりさが『りたい背中せなか』で、
20歳の金原かねはらひとみが『へびにピアス』で2004年に芥川賞を同時受賞したりと、

若い年齢で高い評価を受けてデビューする作家の登場が目立ちました。

蹴りたい背中』は異質な高校生2人の微妙な関係性を豊かな比喩と若者言葉で描き、
蛇にピアス』は居場所のない若者の痛みを繊細に表現した作品です。

綿矢りさ(wikipediaより)

上記の作家の他にも、島本理生しまもとりお鹿島田真希かしまだまきなど、
10代・20代の若い作家たちが登場しています。

日本社会の周縁からの問いかけ

平成という時代には、沖縄や在日朝鮮人など、日本社会の周縁から問題を提起し、
国や社会、人間の在り方を捉えようとする文学も充実しました。

沖縄文学おきなわぶんがくにおいては、又吉栄喜またよしえいきぶたむく』、目取真俊めどるましゅん水滴すいてき』『魂込めまぶいぐみ』など、
沖縄の言葉や風俗を濃厚に描きながら、
現在の沖縄が抱える問題を描き出しています。

平成の在日文学ざいにちぶんがくは、在日二世・三世の作家たちが抱える社会への葛藤や、
世代間のギャップやアイデンティティの不明性を題材としています。

李良枝イヤンジ由熙ユヒ』、金石範きんせきはん火山島かざんとう』のほか、
鷺沢萠さぎさわめぐむ葉桜はざくら』『きみはこのくにきか』、
金城一紀かねしろかずきGOゴウ』が挙げられます。

鷺沢は三世の在日像を等身大で描き、
金城は自らのアイデンティティの問題に取り組みました。

彼らの他には、『家族かぞくシネマ』の柳美里ゆうみりや、
玄月げんげつ梁石日ヤンソギルなどの作家がいます。

柳 美里(Wikipediaより)

異業種作家の活躍

平成の文学の特徴の1つに、他のカルチャーとの結びつきがあります。

別のクリエイティブな職業に身を置きつつ、
小説家としてもデビューした異業種作家いぎょうしゅさっかたちです。

家族シネマ』の柳美里は劇作家・演出家出身で、
海峡かいきょうひかり』で芥川賞を受賞した辻仁成つじひとなりはロックミュージシャン出身です。

辻 仁成(Wikipediaより)

同じくロックミュージシャンで、俳優としても活動していた町田康まちだこうは、
くっすん大黒だいこく』『きれぎれ』で注目を浴びました。

近年では、劇団を主宰する劇作家の本谷有希子もとやゆきこ
お笑い芸人の又吉直樹またよしなおきなども活躍しています。

ケータイ小説やライトノベルの登場

情報技術の高度化や、漫画・アニメなどのサブカルチャーと結びつく形で、
新しい形の文学が生み出されます。

その1つが、携帯電話で執筆・鑑賞されるケータイ小説でした。

ブームは数年で終了しましたが、美嘉みか恋空こいぞら』など、
一時はベストセラーの上位を占めるほどの勢いがありました。

もう1つは昭和末に流行した少女小説の流れを汲むライトノベルです。

漫画やアニメ風のイラストが表紙や挿絵に用いられ、
キャラクターも特徴的なものが多く登場しました。

時雨沢恵一しぐさわけいいちキノのたび』、谷川流たにがわながる涼宮すずみやハルヒの憂鬱ゆううつ』など、
若い読者から多くの支持を受けて、映像化された作品も数多くあります。

女性作家の活躍

平成に入り、女性作家の活躍も目立つようになりました。

平成の間に芥川賞を受賞した女性作家は、
李良枝小川洋子笙野頼子川上弘美絲山秋子いとやまあきこ
川上未映子かわかみみえこ津村記久子つむらきくこ鹿島田真希村田沙耶香むらたさやかなど、26人に上ります。

昭和後期の受賞者は16人でしたので、大きく人数を伸ばしていることが分かります。

ほかにも、時代小説やファンタジー、時代小説など、
幅広い作風で多様な作者を獲得している宮部みやべみゆきも近年活躍している女性作家です。

さいごに

ここまで、平成の文学の流れを見てきました。

令和の時代に入り、日本の文学は一層の多様化を示しています。

今後も様々な作品を紹介していきます。

それでは。

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