御伽草子 ~一寸法師、浦島太郎など~
室町時代以降、御伽草子が物語文学の主流ジャンルになっていきます。
その多くは簡潔な文体で書かれたシンプルな物語で、
奈良絵本と呼ばれる絵巻や挿絵入りの本で流通しました。
代表的な物語に「鉢かづき」「浦島太郎」「一寸法師」などがあり、
近世の町人文化でも受け入れられていきました。
大坂の渋川清右衛門は『御伽文庫(御伽草子)』として23編の物語を刊行しています。
御伽草子の物語は、現代でも人々の間でよく知られています。
日記文学 ~王朝女流日記の終わり~
王朝女流日記の終わり
平安時代に最盛期を迎えた女房による日記文学は、
中世に入っても貴族社会の中で作られ続けていきました。
代表的な作品には以下のようなものがあります。
・『建礼門院右京大夫集』
・『たまきはる(建春門院中納言日記)』 建春門院中納言
・『弁内侍日記』
・『中務内侍日記』 藤原経子
・『とはずがたり』 後深草院二条
『建礼門院右京大夫集』は、私家集という体裁で平資盛との恋愛を懐古した作品です。
『とはずがたり』は後深草院二条の体験を語ったもので、
自身の恋愛遍歴を赤裸々に語ったものととなっています。
その後、王朝女流日記は南北朝時代に入って宮廷社会が不安定になり、
貴族文化が衰退していくのに伴って終わりを迎えることになります。
南北朝時代の日野名子『竹むきが記』が、
女流日記の流れをくむ最後の注目すべき作品です。
男性による日記について
この時代の男性による漢文日記について見ていくと、
代表的なものとして、藤原定家『明月記』や九条兼実『玉葉』などがあります。
『源家長日記』『飛鳥井雅有日記』などは、仮名書きの作品です。
これらの作品は、女性仮名日記に比べて記録としての特徴が強くなっています。
紀行 ~各地に赴いた公家や文化人~
鎌倉幕府が成立して以降、公家や文化人が京都と地方を行き来することも増えていきます。
『海道記』や『東関紀行』などは、この時代の代表的な作品です。
また、阿仏尼『十六夜日記』のように、日記文学と紀行文を合わせたような作品も登場しました。
南北朝時代には、動乱を避けて都を離れた貴族による紀行文が残されました。
室町時代以降は、各地を巡った連歌師たちによる紀行文も作られ、
代表的な作品としては宗長『宗長紀行』や宗祇『白河紀行』『筑紫道記』などがあります。
こうした流れは、やがて後代の松尾芭蕉など俳人による紀行文へとつながっていきました。
代表的な中世の紀行文
・『海道記』 作者不詳
・『東関紀行』作者不詳
・『十六夜日記』阿仏尼
・『宗長紀行』宗長
・『白河紀行』宗祇
・『筑紫道記』宗祇
随筆 ~『方丈記』と『徒然草』~
中世には、その不安定な社会情勢を反映して、
社会から隠遁しようとする「草庵の文学」「隠者の文学」が生み出されます。
そうした隠者文学を代表する2つの作品が、
鴨長明による『方丈記』と、兼好法師による『徒然草』です。
俗世を離れ、自由な視点から社会や人間を見つめたこれらの作品には、
仏教的な無常観を見て取ることができます。
『方丈記』は、王朝時代から乱世へと激変する社会にあって、
「すべての物事は無常である」という仏教的な無常観を基本的な思想としながら、
和漢混交文を用いて自己や相次ぐ災害について書き残しました。
『徒然草』では、仏教的な無常観を根底において、
自然や人間関係、仏教など、様々な事物を対象に、
鋭い観察眼で自らの考えを書き記していきました。
兼好法師の本質を突いた洞察の数々は、
後世に至っても高く評価され、現代にも通じる普遍的な価値を持っています。
説話 ~数多くの説話集~
中世では、説話集も数多く編纂されました。
平安時代の仏教説話を中心とした説話集の流れを受け継ぎ、
『発心集』『閑居友』『沙石集』などの仏教説話集が生みだされていきます。
また、武士の台頭によって、地方と中央の人々の往来が盛んになると、
階級の違う人々の交流も活発化していきました。
『宇治拾遺物語』は仏教説話と世俗説話の両方を収録していますが、
庶民的な心情や関心に基づいたユーモアに満ちたエピソードが特徴的です。
その他にも、『古事談』『十訓抄』『古今著聞集』といった世俗説話集があります。
『古今著聞集』は『今昔物語集』に次ぐ規模の説話集で、
貴族的な題材から庶民的な題材まで、幅広い物語が収められました。
代表的な仏教説話集(鎌倉時代)
・『発心集』
・『閑居友』
・『撰集抄』
・『沙石集』
代表的な世俗説話集(鎌倉時代)
・『古本説話集』
・『古事談』
・『宇治拾遺物語』
・『今物語』
・『十訓抄』
・『古今著聞集』
能・狂言 ~観阿弥・世阿弥親子の登場~
平安末期から続いてきた猿楽と田楽という芸能は、
観阿弥・世阿弥親子によって、幽玄な歌舞劇としての能という形で大成されます。
世阿弥は「夢幻能」という人間の心理を描き出す形式を完成させ、
『風姿花伝』『花鏡』『申楽談儀』などの著作を残して能を確立させました。
猿楽からは、滑稽味溢れる対話を中心としたせりふ劇である狂言も生まれました。
狂言は能と交互に演じられ、能と深い関係を持ってきました。
狂言が「狂言の家」として独立して継承されていくのは室町末期から江戸時代にかけてで、
それ以降「大蔵流」「和泉流」「鷺流」などの流派が誕生していきます。
最後に
今回は、中世の日記文学や紀行、随筆といった多様なジャンルについて取り上げました。
次回は、時代を近世へと写し、俳諧や川柳などについて説明していきます。
それでは。
~俳諧の成立、川柳や狂歌の流行~
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