近世文学を学ぶ② 
~仮名草子から人情本まで~

日本文学を学ぶ

仮名草子 ~イソップ物語や中国小説の影響~

中世の御伽草子おとぎぞうしに連なって、啓蒙や娯楽を目的とした、
庶民向けの仮名小説である仮名草子かなぞうしが、
江戸初期のおよそ80年間に京都を中心に作られました。

代表的な作品には、富山道冶とみやまどうや竹斎ちくさい』、安楽庵策伝あんらくあんさくでん醒睡笑せいすいしょう』があります。

また、その他としては、西欧のイソップ物語を翻訳した『伊曽保物語いそほものがたり』や、
中国の小説をもとにした浅井了意あさいりょうい伽婢子おとぎぼうこ』といった作品が挙げられます。

伽婢子』は中国の明代の小説『剪刀新話せんとうしんわ』と『剪刀余話せんとうよわ』を主要な題材としており、
近世怪異小説の祖と位置付けられる作品です。

浮世草子 ~鬼才・井原西鶴の登場~

1682年(天和2年)の『好色一代男こうしょくいちだいおとこ』から続く井原西鶴いはらさいかくの作品、
そして彼の影響を強く受けた作品は、浮世草子と総称されます。

西鶴は独自の表現で当時の世相や人情を描き出しました。

彼の代表的な著作には、以下のものがあります。

作品のジャンルは好色物から武家物町人物へと広がっていき、
上方や江戸で非常に人気を博しました。

・『好色一代男』
・『
好色五人女こうしょくごにんおんな
・『
日本永代蔵にほんえいたいぐら
・『
世間胸算用せけんむねさんよう
・『
武家義理物語ぶけぎりものがたり

井原西鶴は、松尾芭蕉近松門左衛門と並び元禄文化を代表する、
いわば元禄の三大文豪の1人です。

井原西鶴

井原西鶴以降は、江島其磧えじまきせきが『世間子息気質せけんむすこかたぎ』などの「気質もの」で人気を集めました。

それらは、京都の書店である八文字屋から出版されたため、八文字屋本はちもんじやぼんとも呼ばれます。

草双紙 ~こどもから大人まで~

中世の御伽草子の流れを汲んだ、挿絵中心の短編小説類を草双紙くさぞうしといいます。

表紙の色によって、赤本あかほん黒本くろほん青本あおほんと区分されます。

赤本は子供向けのおとぎ話、黒本・青本は主に大人向けの伝記や演劇ものです。

黒本や青本をさらに大人向けにしたのが黄表紙きびょうしで、
恋川春町こいかわはるまち金々先生栄花夢きんきんせんせいえいがのゆめ』などが最初の作品となっています。

『金々先生栄花夢』は、「一炊の夢」をテーマに、
色里を舞台として、洒脱な文章と挿絵が特徴的な作品です。

黄表紙では、『江戸生艶気蒲焼えどうまれうわきのかばやき』という、
色男になるために奮闘する青年・艶二郎えんじろうのドタバタを描いた作品も有名です。

18世紀末、老中・松平定信まつだいらさだのぶが主導した寛政の改革かんせいのかいかくを諷刺した作品が規制対象となり、
黄表紙のテーマは敵討ちやお家騒動といったものへと移っていきます。

複数の黄表紙をまとめたものを合巻ごうかんといいますが、
柳亭種彦りゅうていたねひこ偐紫田舎源氏にせむらさきいなかげんじ』はその代表的な作品です。

『偐紫田舎源氏』第12編より。

読本 ~傑作の登場~

挿絵の多い草双紙に対し、読本よみほんは文章が主体です。

中国の口語体小説である白話小説はくわしょうせつに影響を受けた、
伝奇的な内容のものが多いことを1つの特徴としています。

まず読本が登場したのは上方で、浮世草子に代わり、
都賀庭鐘つがていしょう英草紙はなぶさそうし』や上田秋成うえだあきなり雨月物語うげつものがたり』などが発表されます。

18世紀中盤に主に上方で著されたものを前期読本ぜんきよみほんといいます。

一方、18世紀末から江戸で作られるようになったものが後期読本こうきよみほんです。

代表的な作品としては、曲亭馬琴きょくていばきんによる『椿説弓張月ちんせつゆみはりづき』『南総里見八犬伝なんそうさとみはっけんでん』が挙げられます。

伏姫神と犬江親兵衛。歌川国芳

馬琴は和漢の古典への深い造詣に基づいた勧善懲悪的な作品を残しましたが、
なかでも『南総里見八犬伝』は、
日本文学史上でも類をみないほどのスケール感と完成度を誇る作品です。

洒落本 ~遊郭を舞台とした「通」な小説~

遊郭を舞台にして、遊女や客の言動を描いた小説を洒落本しゃれぼんといいます。

会話中心の写実的な描写を特徴としており、
遊子方言ゆうしほうげん』によってそのスタイルが定着しました。

洒落本の代表作には、新吉原の大籬おおまがきでのつうのあり方を細密・巧妙に描いた、
山東京伝さんとうきょうでん通言総籬つうげんそうまがき』があります。

しかし、京伝の書いた作品は寛政の改革で取り締まりの対象となってしまい、
洒落本そのものも規制されるようになっていきました。

山東京伝像

滑稽本 ~弥次さん、喜多さん~

滑稽本こっけいぼんとは、町人の会話をコミカルに描いた小説です。

駄洒落や当時の芝居台詞のパロディなどを入れ込んで、
庶民たちの間で人気を博しました。

中でも、十返舎一九じっぺんしゃいっく東海道中膝栗毛とうかいどうちゅうひざくりげ』は大人気で、
20年以上も続編が書き続けられました。

主人公である弥次郎兵衛と喜多八の2人が、
東海道を江戸から京、大坂へと旅をする珍道中を描いた物語です。

十返舎一九像

また、式亭三馬しきていさんば浮世風呂うきよぶろ』『浮世床うきよどこ』も有名で、
銭湯と髪結床での綿密な会話描写と徹底的な「うがち」という特色があります。

「うがち」とは、普通には気付かないような世間の事情や人の欠点などを、
鋭く指摘し軽くさらけ出してみせるという技法のことを指します。

人情本 ~町人男女の恋愛もの~

洒落本や滑稽本の影響から、町人の男女の恋愛を描いた人情本が生まれていきます。

女性をメインの読者としており、文政期を中心に流行しました。

為永春水ためながしゅんすい春色梅児誉美しゅんしょくうめごよみ』はその代表的な作品ですが、
人情本は老中・水野忠邦みずのただくにが主導した天保の改革てんぽうのかいかくで弾圧されることとなります。

『春色梅児誉美』の主人公・丹次郎

最後に

今回は、江戸時代の様々な小説のジャンルとその変遷を見てきました。

次回は、近松門左衛門らによる人形浄瑠璃や歌舞伎といった芸能、

そして国学や蘭学などの思想について見ていきます。

それでは。

近世文学を学ぶ③ 
~人形浄瑠璃、歌舞伎、国学など~
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