中古文学の流れを学ぶ③ 
~歌物語と歴史物語、軍記物語~

日本文学を学ぶ

歌物語の発展

歌物語とは、和歌にまつわる説話を集めたもので、
語り継がれてきた歌語りをもとにして成立したとされています。

10世紀初めの『伊勢物語いせものがたり』は歌物語の代表的な作品です。

在原業平ありわらのなりひらをモデルとした主人公の恋愛や友情など、
様々な人間関係における心情を巧みに描き出しています。

和歌の叙情性を引き立てる簡潔な文章で、
後世の『源氏物語』と肩を並べる物語文学の最高峰として、
のちの世に多くの影響を与えました。

『風流錦絵伊勢物語』
第9段「東下り」、隅田川の景

大和物語やまとものがたり』『平中物語へいちゅうものがたり』は『伊勢物語』の影響を受けて成立した歌物語です。

前者は『後撰和歌集ごせんわかしゅう』時代の歌人たちのエピソードを集めたもので、
10世紀半ばに成立しました。

当時の貴族社会の噂や実態を知ることのできる資料でもあり、
中世の説話集や能の題材にも使われています。

後者は『古今和歌集』時代の歌人である平貞文たいらのさだふみを主人公として、
10世紀後半に成立した作品です。

恋愛の関する話が中心に語られており、
恋の駆け引きや女房との和歌のやり取りの面白さを感じられる作風となっています。

歴史物語の誕生と成立

11世紀前半になると、『源氏物語』『紫式部日記』などの影響から、
歴史的な事実を題材とする歴史物語が成立します。

歴史物語は仮名で書かれた私的な歴史の記述であり、脚色や虚構も多く含まれています。
漢文によって書かれた公的な国史だった『日本書紀』を含む六国史りっこくしとは、
その性質を異にしているものということができます。

栄花物語えいがものがたり』は最初の歴史物語で、藤原道長一家に仕える女房の立場から、
政治・仏教両面での藤原道長ふじわらのみちながの功績を称える作品です。

編年体で描かれたこの作品からは、当時の宮廷や後宮の文化を知ることができ、
文化史の物語としても重要な作品といえます。

藤原道長
(菊池容斎『前賢故実』より)

一方、11世紀後半に成立したのが『大鏡おおかがみ』です。

藤原道長を称賛するという点では『栄花物語』と共通しながらも、
立場は男性の官人で、栄華を極めた道長に至るまでの藤原氏の歴史を描いており、
藤原氏と天皇家との外戚関係を軸とした摂関政治の歴史の物語であるという特色があります。

『大鏡』では、大宅世継おおやけのよつぎ夏山繁樹なつやまのしげきという2人の老人が、
雲林院で対話するという形で藤原氏の歴史が語られるのですが、
この形式はのちの歴史物語にも受け継がれて行きます。

今鏡いまかがみ』『水鏡みずかがみ』『増鏡ますかがみ』といった後続の歴史物語は特に「鏡物かがみもの」と呼ばれ、
これら3つは『大鏡』と合わせて「四鏡しきょう」と総称されています。

軍記物語の成立

平安時代の軍記物語には、
平将門の乱を題材とする十世紀半ば(鎌倉時代との説もあり)に成立した『将門記しょうもんき』、
前九年の役を題材とし、漢文体で書かれた『陸奥話記むつわき』などがあります。

『将門記』には、平将門が国家への反逆に走って最後に討ち取られるまでと、
乱の始末、死後に地獄から伝えたという「冥界消息」が記されています。

築土神社旧蔵の平将門像

これらの作品が、『平家物語』に代表される中世の軍記物語の先駆けとなっていきます。

最後に

今回は、『伊勢物語』に代表される歌物語と、
『大鏡』に代表される歴史物語などについて取り上げました。

次回は、同じく平安時代の文学を代表するジャンルである、
「随筆」について説明していきます。

それでは。

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