歌い継がれる歌謡
上代から伝えられてきた歌謡は、平安時代に入ると、
宮廷での儀礼や宴席、神事などに取り入れられていきます。
9世紀から10世紀にかけては、「催馬楽」という形式の歌謡が流行しました。
そのほかにも、風俗歌、神楽歌といった形式があり、
歌謡は脈々と歌い継がれていきます。
平安時代末期になると、庶民の間で今様といった歌謡が流行します。
今様とは、「現代風、現代的」という意味であり、
当時の「現代流行歌」という意味です。
後白河法皇は「今様狂い」と呼ばれるほどこの今様に熱中し、
自ら『梁塵秘抄』という歌謡集を編纂しています。
作り物語の登場
仮名文字を用いた仮名文学は、古来からの伝説・伝承や、
漢詩文・漢文学の影響を受けながら、
9世紀末に物語というジャンルを確立していきます。
物語の中心となったのは、「作り物語」と呼ばれるフィクションの物語でした。
最初の作り物語は『竹取物語』であるとされています。
『竹取物語』は貴族階級の男性が書いたと見られていますが、
竹取の翁が竹の中から発見した「かぐや姫」がやがて月へと帰っていく物語は、
その後の物語文学に大きな影響を与えました。
10世紀後半には、現存する最古の長編物語である『うつほ物語』が成立します。
『うつほ物語』は、秘琴を受け継ぐ一族の物語で、
SF・ファンタジー的な要素に加えて、政権争いを描いた現実的な側面もあり、
その作風は『源氏物語』など後世の作品にも引き継がれていきます。
そして、10世紀末に描かれたのが『落窪物語』です。
継母による辛辣ないじめを受けた「落窪の君」と、
落窪の君を救いだした少将道頼による継母への強烈な復讐劇が描かれます。
現代にも通用する面白さを持った、写実的な物語です。
『源氏物語』の完成
ここまで見てきた物語作品には、それぞれ伝奇的な特徴や写実的な特徴がありました。
そうした作り物語の特徴だけでなく、
和歌や漢文、日記などのジャンルの要素を取り入れて完成したのが、
11世紀初めの紫式部による『源氏物語』でした。
中宮定子の女房だった紫式部は、
『伊勢物語』のような歌物語、『蜻蛉日記』のような日記といった様々な要素を取り入れ、
後世に多大な影響を与える作品を生み出しました。
『源氏物語』では、随所に和歌や漢詩を引用しながら、
流麗な文体で登場人物たちの内面を描き出し、
恋愛や人生といった深みのある物語が展開されていきます。
物語の主人公は、比肩するものがない美貌と才能を兼ね備えた光源氏。
彼の華やかな恋愛遍歴を中心とする、壮大な王朝ロマンです。
江戸時代の国文学者である本居宣長は、「もののあはれ」という言葉を用い、
『源氏物語』のテーマ・本質について解説しました。
「もののあはれ」とは、自然の移ろいや人生の機微にふれたときに感じる、
繊細で内省的な情趣のことを指します。
『源氏物語』は古典文学の最高峰として、後世の歌人たちにとっての必読書となったほか、
能や江戸時代の物語にもその影響を見て取ることができます。
また、現代でも様々な作家たちによる現代語訳が行われており、
映画や漫画など多様な表現によっても親しまれ続けています。
源氏物語以降の物語
11世紀半ばから後半にかけて、内親王家で盛んに物語が制作されます。
代表的な作品として、『浜松中納言物語』『夜の寝覚』『狭衣物語』などがあります。
これらの作品には『源氏物語』の強い影響を見ることができ、
主人公の恋を巡る懊悩が中心に描かれています。
『夜の寝覚』では女性が主人公となっており、
人物の内面や心情を描いた作品として特徴的です。
また、短編物語集『堤中納言物語』は、「虫めづる姫君」など、
伝奇的で発想豊かな作品を収めた異色の作品となっています。
最後に
今回は、歌謡と作り物語、そして源氏物語の誕生からその後の物語へ、
というところまでを見てきました。
次回は引き続き中古文学を取り扱い、中でも歌物語や歴史物語について言及していきます。
それでは。
~歌物語と歴史物語、軍記物語~
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